「今宵朝を想って、晴天の辟易」風街今日

文章を描く高校生ですが。

「卒塔婆」

 

いきを失うと書いて

もんどりうつ波が競える埠頭

真昼の月と露頭で血を揺らしたし

意地でも怒らないで運命をこなす

ハナミズキの坂が満潮を見るその時々

母が置いてかないでと世迷言を叫んだ

瓦礫がかたどる道で不法の塔を見上げたのに

まだ命の心配もしていなかった

 

西日が焼く落葉の真実

いまだ断れない脊髄移植もつらい

絶え間なく紐にかじりつく津波

胸が平坦に押しつぶされる記憶も

ほどく前に断ち切ってしまえと明日は言うが

別に解いてしまえばいいはずだった

まだらの紐の両端を握る遺族が

さがしものに夢中になっているうちに

 

落雷が甘味をかもしてしまうから

人間の苦悩でカモフラージュするばかり

帰路の五叉路であの人の幽霊が泣いている

舐める泥の波が足首までをひたす

高尚にもなってしまうか

責める家が溶けいだした文句のない怒り

“あの日”というのは安全地帯での言い回し

いつまで経っても“此の羞恥”

「お母さんはなんで逃げろと言わなかったの」

うつせみの泡の問いがはじけた干潮

瓦礫が片付いた街で不法の塔を見渡せば

いくつも墓碑銘が削れて

さっきの朝日ももう暮れる

瓦礫を飲みこんだ顔で不法の塔に触れれば

もう誰かの灯台になっている