「今宵朝を想って、晴天の辟易」風街今日

文章を描く高校生ですが。

「日本書紀外伝」

 

金の綿雲が隆起して、産み落とされも湧き上がりもしながら形成しつつある常昼の白洲。御神子は青々と茂るその島。生命の煩雑さの源を掻いて立ち上る島々、烏賊が住まい漁村が起こった。神と神が喰いあった。岸壁に伊奘諾が印されている。

その大岩戸はオリオン座より高くにあったのか、されどもある文学者が叫んだ「神として生まれた島の地下には黄泉の国。つまり神の体の内にこそ黄泉があった。」ある芸者が言った「黄泉、黄色い泉、黄色い液体を生むってんなら体の中じゃ膀胱のことじゃないですかい。」

痴呆と罵られて真面目な顔をしている。ある文学者が呟いた「イザナミは世界を喰う死者に成り果てた。世界を恨み、共食いをする、狂気の死者となった。」ある芸者が搾り出した「角の婆さんは死んじまったが、戦時もカラメルをくれつづけたあの人が、世界を恨むはずがねえ。死人は恐ろしいもんじゃねえ。」ある文学者が目を閉じた「そうだなイザナミは死者でなく現代への使者となったのだ。」

かっこたるすべてにおいて無知たるから恐るる。ある文学者が言った「生死は離れ難く表裏、生を受けしは奇跡なら死もまた奇跡。軌跡を伴う奇跡たるのだ。」ある芸者が言った「イザナミの体に湧いた蛆てえのは、黄泉でも陸でも生きている。蛆こそ死を凌駕せし真の神じゃあないんですかい?」ある文学者がうなずいた「所詮生死という完璧の仕組みから外れてしまうのは蛆のような下等生物ということよ。」

どうしようもない生命の立ち上り、投網に引っかかった奇跡。愛憎劇、しかしこれをも人の歴史。

ある文学者がささやいた「どうしてこの物語は生まれねばならなかったのか」ある芸者もささやいた「どうしてこの物語なんでしょうか」ある文学者もささやいた「日本人だからだろうか」ある芸者がささやいた「日本人だからですよ」

芸者が詩歌管弦鳴らし奉り、頭ごと澄ます。幾重の島々銀の羊水に浸り、海流の潮風に活力の湧き立つ。緑が生命を発散する。この人間たる前の原初経験。

信じる誇りはあれどなかれど今日も網を投げたまへ。いつの間にやら神と神とが喰いあう陣痛の日々を。

これは、あなたが生まれるまでの物語。